記録面と反射層
記録面と反射層
 CD-Rの記録は、PDSと同じようにレーザビームを使っていることはご存じだと思います。単純に言うと、レーザのオン/オフによって緑色の記録面を物理的に変化させてマークを与え(つまり焼いて組織を壊してしまう)、そのオン/オフを0と1のデジタルデータとしてCDに記録をしているのです。

 このときの要求特性を満たす記録材料にはひょっとしたらざまざまなものがあったかもしれません。が、一つのソリューションとして、CD-Rは、MOや相変化型ディスクなどに採用されているような無機材料ではなく、写真のフィルムに利用されている有機系の光反応色素を選択しました。この有機色素の採用こそが、その後、さまざまな意味でCD-Rを大きく特徴づけることになっていきます。

 では、レーザビームが照射されると有機色素はいったいどのように変化するのでしょうか?

 常識的に考えれば、色素はレーザによって破壊されるわけですから、本来ならその色素の物理的な“逃げ場”を確保しておかなければなりません。ところがそうした逃げ場をつくってしまうと、今度は、Red Bookで求められている65%以上の反射率が確保できなくなってしまいます。

 少し詳しく説明しますと、CDの再生が、ディスクに刻まれた凹と凸の反射率の違い(ピットとランドによる全反射/乱反射)をレーザで読み取って実現していることはご承知のとおりでしょうから、したがって、できるだけ高反射率の構造であることが望ましいのです。


 プレス型のディスクの場合、凹と凸が刻まれたポリカーボネート基板にアルミ蒸着の反射層を設けることで65%以上の反射率と60%以上の変調度(ピット部と非ピット部の反射率の違い)を得ていますが、それではCD-Rはどうなのでしょうか。

 色素の“逃げ場”を確保するということは、結果的には反射率の低下を招くことになります。CD-Rには、有機色素の波長特性に合わせた金色の反射層(当初は文字どおり金。現在はほとんどのディスクが銀を採用しています)が用いられていますが、色素と反射層の間にわずかでも空間(=逃げ場)や介在物があると、それが反射率の低下につながり、このことが、CD-Rがなかなか実用化されなかった原因でもあったのです。

 逆に、その部分のブレイクスルーこそがCDフルコンパチブルのCD-Rの実用化につながったと言え、そのブレイクスルーとは意外にも素朴で、“直付け”──。有機色素の記録面と反射層同士を直接つけてしまうことで達成できたのです。



CD-Rの記録原理
 より技術的に踏み込むと、ディスクにレーザが照射されるとその部分の温度が上昇し、色素が溶融し分解されることになります。とはいえ、ただ単純に溶けてしまうのではなくて、一瞬の“爆縮”が生じるという感じです。

 そしてこのとき、その影響はポリカーボネート基板にも及ぶことになり、基板に変形をもたらします。つまり、有機色素の物理的な変化ばかりでなく、基板の変形までも積極的に取り込み、その相乗効果で、要求される60%以上の反射率変化、つまり変調度を得ることに成功した――ここがCD-Rの記録・再生の原理の第一のポイントです(通常は基板の変形などあってはならないことですから、MOなどはガラス基板です)。

 こうして書き込まれたピットは、果たしてどのような形状になっているのでしょうか? 

 CDに記録されている信号の品質は、一般的には凹と凸の立ち上がり/立ち下がりの急峻さによって決まる部分が少なくありません。「3T」や「4T」などで示されるEFM信号のピットとランドの長短はもちろんですが、立ち上がりと立ち下がりの光学的な明瞭さが、読み出した信号のS/Nやジッタ(後述)に利いてくることになります。

 その点ではプレス型のCDディスクは確かな品質を誇りますが、反対にCD-Rの方は、そういったディスクに比べると、CD-Rドライブに内蔵された小型の半導体レーザで書き込む分、エッジが明瞭さに欠けてしまうことは避けられません。

 反射率と変調度に関しては、記録層と反射層の、いわゆる“直付け”によってクリアできたにしても、信号の品質という点で、果たしてCD-Rは本当に満足できるものなのでしょうか。

 厳密には、CD-Rに書き込まれた信号の品質は、プレス型のCDディスクとまったく同じ質であると断言はできません。ただし、この点に関しては有機色素の屈折率がうまく作用しています。というのは、CD-Rに採用されている有機色素はいずれも屈折率が大きく、そのため書き込まれたピットは光学的には深く――つまり実距離以上にエッジは急峻に立ち上がって(もしくは立ち下がって)いるように見えるからです。

 なお、もう一つつけ加えておくと、レーザビームによってCD-Rの基板は変形し、実際には盛り上がってしまいます。実はこの盛り上がり(=凸)というのは、プレスされたディスクで言うと凹部に相当し、実は、CD-Rとプレスされたディスクとでは、凹と凸の関係は逆になっているのです。

 この逆転現象も光学的に解決させました。凹と凸との関係が逆ということは、位相的に反転していると言い換えることができます。有機色素の厚みはレーザの約4分の1の波長になるように設計されていて、すると、レーザが往復してくる間に波長はちょうど半分となり、結果、CD-Rの“凸”部は、光学的には“凹”部に見えることになるのです。

 言うまでもなく、CD-Rに記録される信号はデジタルです。しかしながら、有機色素の特性、その膜厚、ポリカーボネート基板の精度……など、きわめて多くのアナログ的なファクターがあることにお気づきいただけたのではないでしょうか。これらのどれか一つの特性が不十分であるだけで、CD-Rは十分な能力が発揮できなくなくなってしまうのです。