CD-Rの構造と特徴
CD-Rの構造と特徴(1)……基板と記録層

 CD-Rの構造は、Aポリカーボネート基板、B有機色素、C反射層、Dオーバーコート(トップコート)――の4層からなっています。ディスクによっては、商品的な魅力を加えるためにさらに上に保護層を追加したものもありますが、あくまでもこの4層が基本です。

 CD-Rと言うと、どうしても記録層の有機色素の材料やその特性ばかりに関心が集まりがちですが、文字どおりディスクの“基盤”となる1.2ミリ厚のポリカーボネート基板の成形精度はCD-Rの全体の性能に大きく響いてくることになります。

 肉眼では確認しづらいのですが、よく見るとCD-Rの透明ポリカーボネート基板には、プリグルーブという、ミクロンオーダの非常に微細な溝がディスクの全周にわたって刻まれているのがわかります。

 プリグルーブというのは基板に設けられている案内溝(誘導溝)のことです。プリグルーブはFM変調されて緩やかに蛇行し、レーザはこの溝に沿って記録していきます。したがって、このプリグルーブの精度(それはとりもなおさず、基板の金型となるニッケルスタンパの精度でもあるわけです)と形状がCD-Rの性能を大きく左右することは十分におわかりいただけると思いますが、さらにCD-Rの場合、プリグルーブの溝にたまった色素の「たまり方」(後述)まで記録に生かしているという特色を持っているためとくに重要です。

 CD-Rが基本的に4つの層で構成されています。基板と有機色素に着目してみると、CD-Rの特徴である有機色素は、ポリカーボネート基板の上にスピンコートという方法によって塗布されています。成膜にはいくつかの方法があり、その中でも蒸着やスパッタリングは代表的な手法ですが、これらとスピンコート法とのいちばんの違いは、スピンコートで生成された膜厚は溝の内と外で均一ではないということです。わかりやすく言えば、CD-Rはあえて色素が溝(グルーブ)の部分にたまるような成膜の手法を採っており、ランドとグルーブでの膜厚の違い、いわば「たまり方」の差を利用して反射率をCD並に高くしているのです。

 さらに、この差は記録特性にも大きな影響を与えます。たとえばプリグルーブ外の膜厚を薄くし、記録感度を落とすことで記録ピットの幅を押さえ、記録品質を改善している、といったようにです。

 となれば、色素の膜厚の違い=「たまり方」の差がCD-Rの記録特性にいかに大きな影響を与えるかがおわかりいただけるでしょうし、しかも記録特性は、膜厚――したがってプリグルーブの形状(断面や深さ、成形精度)のみによって決まるのではなく、採用する有機色素の物性、そこに介在する溶剤の特性、工程管理、もちろんスピンコートそのものの方法……などとの兼ね合いによって総合的に決定されるものであることも納得いただけることだと思います。

 「デジタル記録のCD-Rの構造は実にアナログ的である」――。こう言ってしまうのは簡単ですが、アナログ的であるからこそ、装置を導入し材料を揃えたからといっても、すぐに高品質なCD-Rディスクを製造することは困難で、そこにはたいへんな経験とノウハウが求められるのです。このことについてはあとで述べることにします。


CD-Rの構造と特徴(2)……有機色素
 そもそも、CD-Rに採用されている有機色素という材料自体がアナログ的であると言えます。

 先に述べたように、無機物の、たとえばMOや相変化記録のアモルファス材などは、いったん組成が決定されると特性はほとんど定まり、あとからの変更が非常にむずかしくなります。つまり、組成の研究・開発がほとんどすべてを決定してしまうのがMO膜やアモルファス膜なのです。

 CD-R用の色素は、屈折率1.59の基板と780nmのレーザに対応した波長領域において、反射率がもっとも大きくなるような光学定数(屈折率、消すい係数)を有し、なおかつ溶剤との相性がいい……といったことが求められます。CD-R第一号である太陽誘電製ディスクは、こういったことを満たす色素を、たまたまシアニンという有機物で実現させ、CD-Rとして提案したのです。

 有機色素がシアニンだけであったなら、CD-Rの歴史はもう少し平坦であったかもしれません(実際、Orange Book PartII Ver.1.0はシアニン系色素を対象として仕様が定められました)。が、無機物とは異なり、有機物というのは、分子構造をコントロールすることによって特性を少しずつ変化させるのが可能であり、この特性もあって、メディアメーカや化学メーカは、自社のハンドリングしやすい材料の中からCD-Rに適合した有機色素を開発し(言うまでもなく、他社の特許に抵触しないことも自社開発のための重要な動機づけです)、商品化をしました。それがフタロシアニンやアゾといった有機色素です。ご存じの方も多いでしょうが、CD-Rのディスクがメディアメーカごとに微妙に(あるいは全然)色調が異なっている原因の一つは、この採用している有機色素に起因します。


ここに示したのは典型的な有機色素の構造式。実際の構造は企業秘密です。

 シアニン、フタロシアニン、アゾ――。色素によってそれぞれに特徴はありますが、これまで説明してきたように、CD-Rの特性は基板の成形精度や反射層などを含めたトータルな構造や品質の管理によって決まるものであり、必ずしも色素だけで決定されるわけではありません。また、「シアニン系」「フタロシアニン系」といったように、CD-Rの採用している色素の多くには、それぞれ“系”の文字が送られているように、三種類の有機色素といっても、そう単純に三つに分けられるものでもないのです。

 とはいっても、各CD-Rに採用された有機色素そのものの違いがまったくないわけではありません。

 それが端的に現れるのが光に対する応答スピードです。この速度は色素によって微妙に異なっており、ディスクにレーザを照射した際に生じるマークの形状やエッジの立ち上がり/立ち下がり方は色素ごとに微妙に違い、当然、書き込み速度の高速化に伴い、その違いが顕在化してくることになります。

 ターゲットとする位置・形状・深さ方向にマークが正しく記録されなければ、信号としては破綻してしまいます。具体的には、エラーレートに直接利いてくるジッタやデビエーションの劣化を招くことになるのです。ちなみに位置の理論値に対する長さのばらつきをジッタ、分布の偏りをデビエーションと言い、再生信号の物理的な基本要素としてRed Bookに規定されています。

 そしてあまり、お話すべきではないのかもしれませんが、CD-Rドライブに搭載された光ヘッドも当初各社かなり個性的で(たとえばレーザのスポットのランディングの形状には三種類あったのです。)、さらに各社のライトストラテジ(EFM信号を書き込む際のパルスパターン)が未成熟だったこと、さらにドライブ側にも“アナログ”的な部分が多数あった(「CD-RドライブとCD-ROMドライブ」参照)――などのCD-Rドライブ側の要素と、そしてこれまでお話してきたメディアメーカごとにCD-Rの有機色素が異なっていたという要素とが一緒になって、俗に言う“ディスクとドライブの相性問題”を生じさせることになりました。


“ディスクとドライブの相性”とその解消
 ただし、この相性や互換性といった問題は、確かに以前は、CD-Rの重要なテーマとして盛んに議論されていたのですが、現在はディスクとドライブの双方の取り組みによって急速に解消の方向に向かっています。

 その解消の一翼を担っているのが、私たちオレンジフォーラムです。当フォーラム設立の重要な目的(設立当初は「オレンジ研究会」という名称でした)の一つに、メーカ同士の交流と情報交換を活発化し、いわゆる相性や互換性問題の解決をはかり、エンドユーザにより多くのベネフィットを提供するということがあります。論理面、物理面での相性や互換性問題の解消は、オレンジフォーラムの責務でありもっとも重要な研究テーマの一つだったのです。

 具体的には本フォーラム独自に「ディスク・アイデンティフィケーション・メソッド」というものを策定しました。

ディスク・アイデンティフィケーション・メソッドとは、言うなればそのディスクの“素性”です。これをメディアメーカがあらかじめディスクに刻み込んでおき、一方でドライブ側がその“素性”の意味を理解できるようになっていれば、ドライブは、現在そこにセットされているディスクがどういう特性を持ったものであるかが認識できるようになるというわけです。

 「ドライブがメディアを認識できる」というディスク・アイデンティフィケーション・メソッドに盛り込まれたこの考え方は、狭義の相性や互換性問題にとどまらず、2倍速、4倍速、8倍速(さらにそれ以上)といった書き込み速度の高速化や、さらに、たとえば色素の変更に伴って生じるディスクの記録特性の大幅な変更といったケースにおける最適記録の保障などにも利用できます。

 技術の進化に柔軟に対応していくことができる――これがディスク・アイデンティフィケーション・メソッドであり、こういう思想は、MOにも相変化型ディスクにも、もちろんフロッピーにもない、複数の有機色素や複数の光ヘッドの方式が存在していることから編み出された、CD-Rならではの仕組みだと言えるでしょう。

 具体的には、ディスク・アイデンティフィケーション・メソッドはディスクの最内周のエリアに書き込まれていて、ディスクをCD-Rドライブにセットすると(ともにディスク・アイデンティフィケーション・メソッドに対応している場合)、ドライブはまずディスク最内周に記録されているこれらの情報を取得します。

 ここで取得できる情報は、主に「色素の違い」と「メディアメーカ名」で、この情報を基に、CD-Rドライブのマイコンは自身のデータベースからそのディスクに最適なライトストラテジを読み出してきます。

 その後ドライブは実際にレーザをディスクの一部に照射する「OPC(Optimum Power Control)」という処理を実行してレーザパワーを決定。それから実際に信号の書き込みをしていくのですが、書き込みには、最初に設定したOPCの値をそのまま全周に適応させる方法と、「ランニングOPC」といって、微弱レーザを照射し記録面の状態(たとえばごみの付着や色素の塗布むらによる反射率の変化)をウォッチしながら、レーザパワーを随時制御して本記録をしていくという二つの方法があります。現在はランニングOPCが主流になっていて、これによってメディアの個々のばらつきまでも吸収し、そのメディアの特性を最大限に引き出せるような書き込みが可能になってきています(なお、「オーディオ用CD-R/RWレコーダ」でもこの部分を詳しく説明します)。



ドライブのファームウエアのバージョンアップ
 以上のように、オレンジフォーラムが策定したディスク・アイデンティフィケーション・メソッドを本フォーラムへの参加企業が採用したこと、さらに多くのドライブがランニングOPCを採用するようになってきたこと──など、こうした取り組みや技術の向上により、これまでCD-Rで言われてきた、いわゆるディスクとドライブの相性や互換性といった問題は、確実に過去の話になりつつあります。

 とはいえ、ここ数年のCD-Rの成長ぶりはすさまじく、ディスクの種類もメーカ数もものすごい勢いで増えつづけているばかりか、これに拍車をかけるように、ドライブの書き込み速度も2倍速、4倍速、8倍速……と劇的な進化を遂げています。

 このように、CD-Rの進歩があまりに急激であることから、まれに、ディスクとドライブの組み合わせによっては、どうしてもうまく対応できないケースが出てきてしまうことがあります。

CD-R/RWドライブのファームウエアダウンロード画面




 こうした不都合ができるだけ起こらないよう、現行のCD-R/RWドライブのほとんどは、内蔵のPROMのファームウエアのバージョンアップで対応できるようになっています。ただし、いままで発売されてきたすべてのモデルがこの仕様を満足しているわけではありません。

 CD-R/RWドライブにおけるファームウエアとは、PCからの命令を受け、実際の記録動作をつかさどるコントロールソフトウエアを指し、これがあることによってドライブは、必要に応じディスク・アイデンティフィケーション・メソッドやライトストラテジなどの情報を最新の版にリフレッシュできるようになります。

 手順は上図に示したとおり、ドライブメーカのインターネットのホームページにファームウエアがアップされていますから、それをダウンロードし、CD-Rドライブにインストールするだけです。こうしたことは、プリンタドライバのバージョンアップやWindows98のアップロードプログラムなどと似ていますからすでにおなじみのはずでしょう。

 ディスク・アイデンティフィケーション・メソッドとファームウエアのダウンロードの組み合わせによる仕掛けは、確かに、エンドユーザに対し常に最良の書き込み環境を提供するものですが、反対にうまく使いこなしていかないと、たとえば、本来は4倍速や8倍速の書き込みに対応しているディスクであるにもかかわらず、ドライブ側のファームウエアのバージョンが古いために等速や2倍速でしか書き込めないことが現実に起こり得るので注意してください。

 また一方で、ファームウエアのバージョンアップ(リビジョンアップ)はドライブメーカにとって負担でないわけではなく、ユーザにとっても手間であるのは事実です。こういう仕組みのないことが、理想であるのかもしれません。


CD-Rの構造と特徴(3)……反射層
 有機色素から相性・互換性問題、ディスク・アイデンティフィケーション・メソッド、そしてドライブのファームウエアへと話題を進めてきましたが、ここでテーマを再びCD-Rディスクに戻して、最後に反射層について触れておくことにします。

 CDがその再生において光の反射率の違いを応用していることは、ここで改めて説明するまでもありません。レーザから発した光が戻ってこないと信号を読み出すことはできないのです。

 プレスのCDディスクの場合、蒸着したアルミを反射層としています。これに対してCD-Rの反射層は、現在、ほとんどすべて銀となっています。以前は、有機色素の屈折率や反射率、記録波長などとの兼ね合いから金が採用されてきましたが、最近の急激なメディアの低価格化によるコスト削減要求から、金に代わり銀が採用されるようになってきたのです。

 金から銀の反射層へ――。コスト以外に銀が優位な点として“剥離強度”の向上ということが挙げられます。

 CD-Rの保護面にテープを貼っていて、それをはがしたら反射層まではがれ、信号の読み出しがまったくできなくなってしまった――CD-Rを使い込んできたユーザであればそういう経験は必ずあるでしょう。テープを貼ったりはがしたりすることは、いまでも決して推奨できる使い方ではありませんが、ともあれ、指摘されていた剥離強度は、銀を採用することで大幅に強化され、メディアのトータルな信頼性がより高まったこと、これは確かなことです。