低書き込みパワーとCD-RWの用途
 さてここでもう一つ、レーザパワーについてお話しておきたいと思います。

 記録時のCD-RとCD-RWとのレーザパワーを比較してみると、CD-Rが4〜11mW(Orange Book PartII)、一方CD-RWは8〜14mWになっています(Orange Book PartIII)。Orange Bookによれば、CD-RWの方がCD-Rよりも多くのレーザパワーを必要とするはずなのですが、現在のCD-Rの書き込み速度の主流である4倍速でのレーザパワーはピーク値で17mWを上回り、その倍速である8倍速では20mWを超えるパワーが要求されるようになってきました(高感度タイプのメディアでは8倍速でも17〜18mW程度で記録できます)。CD-RWは〜14mWで変わりありませんから、したがって、実際はOrange Bookの仕様は逆転していて(当初はそうではなかったのですが)、CD-RWはCD-Rよりも低パワーで記録できるようになっています。

 CDファミリーのメディアにおいて、データの書き換えが低パワーで実現できることはシステムにとっては好条件です。なぜなら、高いレーザパワーを使うと当然ドライブのコストも上がってしまい、コンシューマユース中心のCDにはなじまなくなるためで、低レーザパワーはCDの絶対の条件であり宿命でもあるのです。

 そしてもしも、高いパワーの得られる半導体レーザが低価格で製品化されたとすると、確かにCDレベルの反射率を獲得できますが、反面、現在の相変化材である限りディスクは壊れやすくなります。いや、その前に、現在の相変化材に強力なパワーを与えてしまうと、物理変化(=書き換え)のサイクル(=サイクラビリティ)が数十回程度と極端に縮まって、実用に耐えられなくなってしまいます。

 ――以上のような特性の検討を経てCD-RWの仕様が決まり、その仕様から用途が導き出されてきます。

 CD-RWの用途はいまのところ、大容量のフロッピーディスク、もしくはCDオーサリングのプルーフ、バックアップ/ストレージ……などであり、次節で述べるオーディオ用途でたとえるなら、オーディオコンパクトカセットに相当するメディアだと言えるでしょう。決してハードディスクの代替ではありません。

 ですから再生の仕様として、数十回の書き換え程度の性能では能力的に不足ですが、かといって、数万回を上回るほどの書き換えの能力は明らかにオーバースペックになってしまいます。フロッピーディスクやオーディオコンパクトカセットの能力を考えれば(せいぜい数十回程度の書き換えが限界でしょう)、そしてそれと同等の使い方がCD-RWに求められているのだとすれば、CD-RWに求められるサイクラビリティは自ずとフォーカスされてきます。

 結果、最低限保障という意味で、CD-RWの書き換え回数は1000回程度と定まりました。

 果たして1000回というのは多いのか少ないのか――。

 ひとこと言っておきますと、現在はこの「1000回」という数字が独り歩きしている感じがあります。よく、CD-RWは「1000回しか書き換えができない」といった論調がありますが、「フロッピーディスクは数十回しか書き換えられない」という言い方がほとんど無意味なように、プルーフ、バックアップ/ストレージ、オーディオコンパクトカセットの代替としてのCD-RWは、書き換えできる回数の視点で語られるものではありません。そもそも、ハードディスクと違い、このようなバックアップやマルチメディアデータのストレージ系のメディアでは、セクタやファイルの頻繁な書き換えなどほとんどあり得ないことを、エンドユーザならだれもが承知しているはずです。

 

 こわだるようですが、「1000回」というのはたまたまこの数字がOrange Bookによって定められているだけなのであって、2000回でも3000回でも1万回でもいいのです。決して、これらのスペックが実現不可能なわけではありません。ただ、CDのシステムはあくまでコンシューマユースであり、エンドユーザのベネフィットと用途を最優先に据え、そこに最善の技術のバランスをはかるとこのような仕様になるのです。たとえすばらしい性能であったとしても、それがエンドユーザにとって明らかにオーバースペックで、彼らの手に届かないくらい高額なものになってしまっては、ユーザにとってもCDファミリーにとっても無価値なものです。

 それと、一般に流布している「1000回」にはいくつか誤解があるのでここであえて説明しておくと、それは「CD-RWはディスク一枚に対して1000回以上の書き換えを保障していない」とか、あるいは「1000回以上ドライブにセットできないのではないか」という誤解です。

 CD-RWでの1000回とは、一つのセクタの最低の書き換え保障が1000回以上ということであってディスク一枚分を指すのではありません。パケットライトの場合、CD-RWにはハードディスクやMOなどと同じ“代替セクタ”という概念が導入されていますから、もしもあるセクタが記録に不適格となったら(俗に言うセクタが死んでしまったら)、CD-RWのファイルシステム(UDF)は、ユーザに見えない部分で自動的に不適格のセクタに代わる新しいセクタを割り当てます。

 CD-RWはカートリッジレスのディスクのため取り扱いには細心の注意が必要ですが、その扱いのことを別にすれば、1000回使うと記録できなくなってしまう、ということは絶対に起こり得ません。念のため。

 CD-RWに少し残念な部分があるとすれば、それは相変化記録が、原理的に“超高速”の書き込みには対応しにくいということかもしれません。現行の最速書き込みは4倍速。すでに10倍速を超える取り組みは始まっていますが、それ以上の速度となると、技術的な難度は相当に高まります。このことはあらかじめ承知しておいた方がいいでしょう。