パケットライト誕生の背景
 TAOとマルチセッションの組み合わせは、確かに追記の一つの方式ですが、しかし、これには一つ大きな弱点があって、各セッションのリードインとリードアウトの部分で15〜40MBもの容量を消費してしまうのです。たとえばPhotoCDが扱うような写真のデータの場合であれば、一つのファイルサイズが巨大なのでリードイン/アウトに費やされる容量は相対的に小さくそれほど気になりませんが、反対に小さなファイルの書き込みは苦手です。ワープロや表計算のような1MBにも満たないようなファイルをたった一つ記録するのにリードイン/アウトだけで数十MBも浪費するわけにはいきません。

 そうならないように、と考え出されたのがパケットライトです。

 パケットライトの考え方そのものは、Orange Book PartII Ver.1.0のころからありました。TAOが考案されたのとほぼ同じころにはすでに概念はあったのですが、論理的に整備されたのはVer.2.0で、本格的に運用されたのはそれ以降のことになります。

TAOとパケットライト
 TAOとパケットライト――。どちらもインクリメンタル ライトと呼ばれ、前者はトラック単位、後者はパケット単位での記録、と説明されることが多いのですが、“プリギャップとデータ”という観点から見ると、TAOは「プリギャップ(インデックス0)とデータ(インデックス1)を、継ぎ目なく連続的に書き込んでいく方式」、一方パケットライトは「プリギャップのあとに、データを継ぎ書きしていく方式」というふうに説明することもできます。

 プリギャップ=インデックス0というのは、オーディオCDプレーヤで表示される曲間の「マイナス秒」表示の部分のこと。CD-DAディスクでは曲のガイドのようなものと理解してもいいでしょうが、データCDでは各トラックの先頭の150フレーム(2秒間)に必ず設けられており、この中にはTAOなのかパケットライトなのか、といったことも記述されています。

 このプリギャップも含めてデータまでを一気に記録するのがTAO。ですからTAOでは、プリギャップの初めとデータ部の最後にランイン/ランアウトがあり(したがって、プリギャップとデータの間にはリンクブロックはありません)、一方、いわばトラック内を継ぎ書きしていく方式がパケットライトで、ランイン/ランアウト(つまりリンクブロック)はプリギャップ、データの各先頭と最後にあります。

 Orange Bookの定義ではランインからランアウトまでのまとまりをパケットと呼びますから、くり返しになりますが、トラック単位のパケット記録をTAO、トラック内を分割して記録していくような書き込み方式をパケットライトと呼んでおり、リンクブロックがどこにあるかの違いでTAOなのかパケットライトなのか、になるわけです。

アドレッシングメソッド
 さて、パケットライトにおいて、データをどのように書いていくかには、Orange Bookでは二つの方法を規定しています。

 一つは可変長(バリアブル)記録、もう一つは固定長(フィックス)記録で、このときに注意しなければならないのは、可変長と固定長とでは異なるアドレスのルールが適用されるということです。このアドレスのルールを“アドレッシングメソッド”(以下「メソッド」)といい、可変長では「メソッド1」が、固定長では同2が適用されます。

 「メソッド1」と「2」の違いは、物理アドレスと論理アドレスの対応させ方の違いと考えていいでしょう。可変長記録に適用されるメソッド1は、リンクブロックも含めた物理アドレスをリニアに、そのまま論理アドレスに対応させるだけなので、とくに問題はありません。多くの(とくに旧型の)CD-ROMドライブはこの「メソッド1」に対応しています。

 ところが固定長記録に適用される「メソッド2」は多少複雑で、リンクブロック(正確に言うとランアウト+リンクブロック+ランイン)の部分をスキップし、論理アドレスとしてカウントしないというルールが採用されているのです。要するに「リンクブロックは物理的にはあるのだけれども、論理的に存在しない」という、そういうルールが「メソッド2」です。

 固定長記録ですから、どの物理アドレスがリンクブロックに相当するのかはあらかじめ計算で求められるわけですが、それではなぜ、固定長記録に限ってこのルールが適用されるのでしょうか。それは、CD-R/RWと他の記録メディア(ハードディスクやMOなど)との論理的な整合性をできるだけ取れるようにしておくために、です。

 パケットライトにおいては、トラック内に、原理的に複数のリンクブロックが存在します。リンクブロックは、ガードエリアとしてインクリメンタルライト実現する上では欠かせない機能ですが、視点を換えると、リンクブロックとはデータの欠落以外の何者でもありませんから、このままでは他の記録メディアと論理的に大きな齟齬を生じてしまいます。とりわけCD-RWの場合、書き換えを実現する上で、他の記録メディアと論理的に整合性を取ることと固定長記録は必須の機能でした。

 ――以上がOrange Bookで定義されているパケットライトの概要です。

 もっとも、Orange Bookにおいて「メソッド2」をこのように定義したものの、当然ながら、このルールで書き込まれたデータを読み込めるCD-ROMドライブはありません。すべてが「メソッド1」対応なのですから。そこで新たに、「メソッド2」に対応するCD-ROMドライブ、つまり、リンクブロックを無視して論理アドレスをカウントしていくCD-ROMドライブの仕様が策定されました。

パケットライト

 それがマルチリード対応のCD-ROMドライブなのです。

 「メソッド2」への対応もマルチリードCD-ROMドライブの重要な要件なのです。

 ちなみに、「メソッド1」と「メソッド2」、すなわちパケットライトやTAOの記録の単位はトラック(インデックス0+インデックス1)と定められており、セッション単位ではありません。ですから理論的には、一つのセッション内に、パケットライトとTAO、「メソッド1」と「メソッド2」を混在させることは可能です。

 最後は少しわかりにくかったかもしれませんが、実はこの複雑さが実はCD-R/RWなのです。CD-R/RWがこうなってしまったのは、ひとえに「読み出し専用」のメディアを書き込めるようにしたからです。他の記録メディアと比べ類のないほど複雑なため、設計者に解釈の違いが生まれ、これが不具合になる場合もあります。こういった問題を防ぐため、オレンジフォーラムでは、Orange Book、コマンド(MMC)の解釈を統一、メディアの互換の検証などの作業をつづけています。